そんな彼らでも食べ終えた皿を台所まで片付けるという常識は知っているらしかった。
・・・一名を除いて。
「チパー俺ん皿ももう持ってってー」
「はいよー」
「・・・・・・」
動けよ。
「・・・あ、今動けやとか思ったやろ?」
ユウが私をちらりと見る。
「ええの俺は。長男やもん。長男偉いねんぞ。なんたって最年長やからな」
「あっそ」
やばい。
このひととは、仲良くなれないぞ。
ちゃーん、流しんとこ置いといてええ?それとももう洗ってまおか?」
「あ、いいですよ私やるんで」
「ほんまに?ありがとうごめんな」
「いえいえ」
・・・同じ環境で育った、はずなのになぁ・・・。
「・・・お前俺にだけ態度違くないか?」
「さぁ」
「さぁってお前、・・・・・・ああ!!!お前、ひょっとして!」
「ひょっとしない!!!」
「んなことより、親父に連絡とらんのか?」
バルが口を挟む。
ってゆーかそれ、買い置きしておいた私のコントレックスなんだけど・・・。
「あ、もらった。俺水道水あかんねん。ミネラルウォーターやないとあかん」
「・・・そうですか・・・」
「で?」
「あ、そうだったそうだった」
しかし、今電話して大丈夫だろうか。もうシャワーは終わっただろうけど・・・。
「ん」
バルが電話の子機を差し出した。どっちが住人なのかわからないな、と思いながらとりあえず受け取る。
「・・・・・・まぁいいか」
相変わらず向こうの恋人といちゃいちゃしてたら電話に出ないだけだろうし、寝てたら起きてくれるだろう。さっきの電話のことを彼女に聞いてたら多少気まずく思うかもしれないけど、そこは私ももう多少世間を知ってる高校生。余計な追求はしない方向で通せばいい。
そもそもこのご時世、こんな時間に見知らぬ男3人と一つ屋根の下にいることのほうが問題があるはずで。
国際番号のあとに、電話番号をプッシュ。
「・・・・・・・・・・」


呼び出し音×4。


『・・・もしもし』
父は、意外とあっさり出た。
「あ、もしもしお父さ」
「もしもしー」
と思ったら、バルに子機を奪い取られた。
「あ、どうも。あのですね、僕たち今あなたのおうちにお邪魔してるんですけども。ハイ。あ、ハイ3人ーおりましてー。いや僕たち兄弟なんですよ。ユウ、チパ、バルいいまして、僕あのーバルなんですけども。ハイ、3男の。いやいや彼氏とかやないですんでそこは安心していただいて。えぇ。ハイ。や、それがですねー、実は僕たちですね、あなたの甥っ子、なんですね実は。・・・えぇハイ甥っ子。・・・あ、そうですそうです!そうそう僕らの親父があなたの弟で。えぇえぇ。あ、どうもはじめましてー・・・いやいや!そんなことはないです!えーと、それでですね!今あのーお宅にお邪魔してるんですが、・・・あぁとんでもないですそんな、広いおうちで。それでー、あのーちょっと僕らここ住めないかなっていうご相談をしたくてですねー・・・や、それなんですけど、そう僕らの親父がですね、ちょっとまぁ、何しにかわかんないんですけど単身で海外飛んじゃいまして。えぇ突然。僕らもびっっくりしたんですけど。ほんで、僕ら、置いてかれちゃったんですよね。で家まであの親父売り飛ばしまして。もう僕ら住むところとかないんですね。えぇ、いやほんまに。で、まぁ置手紙がありましてー、その手紙にね、こちらの住所とあなたの名前とが書いてあったので訪ねてきたんですけども、お嬢さんしか今いないということで。や、わかってますわかってますお嬢さん大事なのは!ほんでも俺らもうこのままやと住むとこがマジでないんですよ、住所が公園とかになってまうんですよ。ホームレス高校生になってまうんですよ!なのでもう、助けると思って!会ったこともない甥っ子ですけど、もうほんまに慈悲の心を見せていただけるとほんっまに!助かるんですけども!いかがでしょうか!」
三男バル、第三話目にしてとんでもない長台詞だった。
てゆーか、彼あんなに喋るキャラだったんだ・・・。
「バルは外面ええからな」
ユウがニヤニヤ笑いながら言う。
いや、こういう電話での説明とか交渉こそ長男の仕事じゃねぇのかよ。
「・・・・え、ほんまですか!!あーりがとうございます!いやほんまに助かります!!あ、ハイ、そのへんはもう全っ然!全っ然心配いりませんので!ハイ!あ、そうなんですか、それはごめんなさい!あ、ハイわかりました!じゃあまたー、後ほど!はい!ほんまにありがとうございます!!」
ピッと電話を切って、「了解とれたで」と電話とは打って変わっての愛想のなさでバルは言った。
・・・え、了解、とれたの?
「うっそだぁ!!!!!」
「ほんまやて」
「え、ほんまに!?」
「よーっしゃ!よぉやったなバル!」
「せやろ今日のMVPやろ俺!」
「間違いないMVPやで!」
「家できたー家できたー!」
ハイタッチして喜んでいる彼らを信じられない思いで見つめる。・・・いや、信じられないのはうちの父だ。そんなに能天気な男じゃないはずなのに・・・!
「家主の許可取れたんやから、お前ももう変な意地張らんと認めぇや、俺らとの同居」
「・・・そんな軽く言いますけどね、」
「いやお前が心配しとることわかるよ、なんたって男3人やもんな?でも俺らがお前に手ぇ出すわけないやろ?」
「お前自分にそんな魅力あると思てんのか。はっきり言う。ないで?」
「・・・・・・お前ら口の利き方に気をつけろよ」
「・・・ちゃん?」
あんまり勝手なこと言わせとくわけにはいかないしな・・・このままだとこいつら、どんどん調子に乗るばっかりっぽいし。というわけで釘を刺しておくことにした。チパが少し怯えたように私を見る。
「言っとくけどね、いつでも追い出せるんだよ?あたしがお父さんに嘘でも『こいつらに襲われた』って言ったら一発退場なんだからね」
「おっ前!」
「そのへんの口八丁は得意なんだよ、悪いけど。中学のディベート大会で関東一になったことがあるくらいだからね。そこんとこちゃんと理解しといてくれないと・・・」
一旦言葉を切る。


「・・・明日にでも、お前らの住所は公園になる」


静寂。
一拍置いて、「横暴やぞ!」「理不尽!」「ごめんなさい!」という期待通りのレスポンスが返ってきた。










(06/16)