「・・・・・・」


起きた。
時計を見ると7時だった。カーテンの向こうから光が差し込んでいる。今日は晴れだろう。
平日なので、二度寝はしない。そのまま起き上がった。
自分の部屋を出て階段を下りながら、嗅ぎなれない匂いにちょっと吐き気がする。


「酒くさっ」


この臭いで不本意にも眠気がとび、階段を降りきった頃には昨日あったことを事細かに思い出していた。
・・・正直、夢オチだったらいいのになぁ。
しかし現実は現実、リビングと廊下を繋ぐドアを開ければ一気に臭いはきつくなり、そこにはただの屍のような男5人が倒れ付していた。
あ、やっぱヒロと亮は帰れなかったんだな。
昨晩、おかしなテンションになっていた彼らに関わりたくなかったので私は先に就寝した。自分の部屋に引っ込む前にヒロと亮にはちゃんと帰るように言ったはずなのだけど、その時点でわりと二人ともフラフラだったから無理だろうなという予測もあったわけで。それがただ的中しただけだ。
とりあえずリビングに入ってカーテンと窓を開けた。やっぱり晴れていたけど、まだ朝だから少しだけ風が冷たい。
それから一旦リビングを出て洗面所へ。顔を洗ってさっぱりしたところで、さて、彼らを起こさなくちゃ。









「ヒロー亮ー朝だよー」
返事はない。
「今日は平日だよー学校あるよー」
返事はない。
「一旦家帰んなきゃだめでしょー」
返事はない。
「いい加減にしろよーさっさと起きろよー」
返事はない。
「怒るぞーいいのかー怒っちゃうぞーーー」
返事はない。
返事がないならしょうがない。
というわけで、一発ずつ蹴飛ばした。


「いっ・・・」
「あー・・・?」


それでどうにか目を覚ました二人はきょろきょろと辺りを見回して現状を把握したあと、
もう一度、目を閉じた。
「おいこら!」と二度寝を阻止するために小さめに怒鳴ると、「うっさいねんお前・・・」「・・・もー・・・やー・・・ムリー・・・」と目を開けもせずに唸る。
これは、一人ずつ起こさなきゃダメかな。


「ヒーロ。起ーきーて」
「・・・・・・もー俺あかんかも・・・」
「大丈夫大丈夫」
「がっこー行かれへん・・・休む」
「ダメ。ちゃんと行くの学校」
「・・・じゃあの学校行く」
「意味がないだろそれじゃ!」
「じゃあ休むー」
「ヒロ・・・もー・・・」


もうこうなったらヒロのお母さん呼んでくるかな、どうせ隣だし・・・。
なんて考えていると、「オイ」という声。
バルだった。
「うっさいねんお前朝っぱらから・・・しかも起こせてないし・・・」
「あーごめんなさいねー」
というか、まさかそっちが先に起きるとは思わなかった。
バルはヒロの前にしゃがみこんで、「内、一旦起きろホラ」とヒロを起こし始めた。
・・・おぉ、優しい。


「・・・バルくん?」
「起きぃ。朝なんやってよ。学校あんねやろ」
「・・・行きたないよ・・・」
「わかるけどな、でも行かなもったいないやろせっかく学校行ける環境やのに。学校行かれへん俺からしたらむっちゃ羨ましいねんぞ、お前ら高校生が」


・・・あ、そっか。あの3人は高校行ってないんだった。
その理由はとてもシンプルで、「学費払えるだけの金がどこにあんねん」ということらしかったけど。まぁ、父親が無職の冒険家みたいなひとだしな・・・たしかに安定した収入なんてなかったのかもしれない。
「学校なんてメンドいしな。ちょうどよかったわ」なんて昨日言っていたけど、やっぱり少しは、行きたかったんだな。


「・・・・・・ん・・・」
「学校行けるな?」
「・・・おん、行く。」
「しゃ、起きろほんなら」
「んー」


そんな感じで、見事バルはヒロを起こすことに成功した。
ちょっと見直した。
「頼むから惚れんなよ。ほんま困るからお前に惚れられても」
「惚れねぇよ」
ちょっと幻滅した。


さて一方の亮はというと、目を閉じながらもバルの声は聞こえていたのだろう、何も言わなくてもむくりと起き上がり「オイ」と私を呼ぶ。
「朝飯」
「・・・はい?」
「俺と内一旦帰って着替えてくるから、その間に朝飯作っとけよ」
「・・・・・・はぁー?」
「和食やぞ」
「いや家で食べなよ」
「俺んちいっつもパンやねん最近。和食の朝飯食いたいねんたまには」


知らねぇよ錦戸家の朝食事情なんて。


「あ、俺も食いたいの朝ご飯ー」
「ええやんどうせ自分のとバルくんたちの作るやろ?ちょっと人数分増やすだけやんか」
「あーそうだコイツらの分もいるんだ・・・めんどくさっ」
そんなん言うとったら俺のお嫁さんになれへんよー?」
「じゃあヒロのお嫁さんにならないよ」
「えっ」
「もーわかったわかった、作るからさっさと帰って準備してきなよ二人とも」
「え、、あの・・・」
「ほら内帰んで」
「・・・・・・」
「ほらヒロ、早く行っといで」
「・・・・・・」
「内、はよー。急いだら、あれや、がいってらっしゃいのチューしてくれるて」
「マジで!!?」
「嘘だ!!」
「ウソなん!?」
「それくらいしたれやお前、慣れとるやろええやん内なら」
「な、ほっぺほっぺ!ほっぺでええから!」
「あーハイハイほっぺねほっぺ。いいからわかったから、行っといでもー」
「わーい!行ってきまーす!」
「ほなあとで」


バタバタと彼らは出て行った。


考えてみたら、あの二人がうちに泊まるの久しぶりなんだよな・・・高校入ってから初めてか。とはいっても思春期の微妙な感情によって泊めなかったわけでなく、私が1年生の間だけ高校の寮に入っていただけの話。
・・・さて、さくさくご飯作らないとな。ヒロはともかく亮は文句だけは一人前なんだから。


「・・・あ、そうだバルは朝ご飯食べる?」


と、バルを振り返る。
寝ていた。


「あ、っそー・・・」








(06/25)