|
「ほんと、必要ないと思います」 私がそう言うと、村上先生は「いや、そうやと思うねんけどな」と前髪をくしゃっとした。 「・・・先生、髪伸びましたね」 「あ、やっぱ思う?昨日教頭にも言われた」 「切るんですか?」 「切ったほうがええってことやろな、わざわざ言われるってことは。でも時間がなかなかなー・・・」 「って、そうでなく」と村上先生。 「わかってますよ、家庭訪問ね」と私。 「そういう季節やん。毎年必ずやん。一人だけ、お前の家にだけ行かんっつーのもなぁ」 夏休み前の家庭訪問。授業参観がない代わりに、うちの学校にはそんなものがある。寮に入っている生徒には、担任と保護者がその部屋を訪れることになっている。だから寮に入っていた去年は父と村上先生が私の寮の部屋にやって来た。 「はなー、大丈夫やとは思っとんのよ。去年寮の部屋見たときもきっちりしとったし成績だって全然悪ないしな」 「だって先生、そもそもうちお父さんいないんですよ?うちに来て何見るって言うんですか」 というかむしろ、見られたくない連中が3人ほどいる。 「せやから形式やん。とりあえず形だけでも行かなあかんようなさ、そういうのがあんねん教師には教師で」 それは、わかるけど。 「玄関先でええねん。べつにあがろうとか思ってへんから。お前んち行きましたっていう事実をな、」 「口裏合わせますよ。先生は昨日の夕方うちに来ました。はいオッケー。」 「オッケーちゃうわい」 「なんでですか」 「心配しとんの。一応な、17歳の女の子やんかお前。一人で暮らしとって危ないこととかもあるかもわからんし、実は言わんだけで困ったこともあるかもしれん」 困ったことはたしかにありますけど。 「俺を安心させるつもりで、10分だけ時間くれへん?お菓子持ってったるやんか」 「お菓子に釣られると思わないでください」 「ふーん?」 「・・・・・・ちなみになんのお菓子ですか」 「なんでもええよ。シュークリームか?ハーゲンダッツか?」 「・・・・・・・・・・」 「というわけで、4時半に担任の先生が来るけどあんたたちは2階から絶対に降りてこないこと」 彼らのでかくて汚い靴を靴箱にしまいながら(隠しながら)言うと、「えーーー」と予想通りの返事が返ってきた。 「俺ら隠れとらなあかんの?」 「なんでねんな、同居人やろ」 「同居人がいる状況がおかしいんだよ。そもそも昨日の今日だろ。馴染みすぎなんだよ」 「おかしないやん。チパが昨日ええこと言うたで?一度会ったらなんとかでーって」 「一度会ったら友達で毎日会ったら兄弟や!」 「そうや!もうな、飯一緒食ったわけやんか、インスタントの散らし寿司でも。もう、ええやろ。馴染んだやろ」 無理を言う。 「せやからその先生に説明して、俺らもその先生にまぁひとつよろしくー言うて」 「めんどくさいのそのへんの説明が」 「せやから俺らから説明したるやんけ」 「・・・なんて言うつもり?」 「・・・それはそのときにならなわからんわ」 「そのへんはアドリブ力やからな」 「それが一番嫌なんだよ!」 なんといっても彼らには恋人亭主愛人の前科がある。今回来るのは担任の先生なのだ。ヒロや亮とは違うわけで、下手なこと言われたら本当に本当に本当に困るわけで。 「10分くらいじっとしてて!たった10分だよ!?」 「・・・・・・まぁそこまで言うなら、なぁ」 「ほんでもお前言うとくけどな、そんなん俺らのこと隠したってなんの意味もないねんからな」 「あんたらがいたところで何の意味もないんだよ」 「お前なんてこと言うねん!!」 「しっかし家庭訪問なー・・・めんどくさいことしよるな学校ってのは」 「ほんまやな、先生もめんどくさいやろなぁ」 「え、ちなみに男なんかお前の担任は」 「男男」 「・・・あら」 「お前大丈夫か?むしろ俺らおったほうがええんちゃうか?」 「は?」 「女子生徒の一人暮らしの家に家庭訪問で来る男教師って、絶対そいつ助平なこと考えとんで絶対」 「馬鹿言ってんじゃねぇよ!!!」 最悪すぎる想像力だった。 村上先生の来訪まで、あと15分。 (07/13) |