チャイムが鳴ったのは、彼らを強引に2階の父の部屋に押し込んだ直後だった。
「・・・どーもー」
「よ」
村上先生はスーツ姿で、約束どおりミスドの箱を持っていた。
「ほれ」
「わーい。ありがとうございますー」
「正直リクエストがハーゲンダッツとかやなくて安心したわ。言うたの俺やけど」
正直ハーゲンダッツ全種類がよかったけど、そこまで期待してないですよ。とは言わない。その代わりに「スーツも意外と似合うんですね」と当たり障りのないことを言う。
「まぁなースーツも嫌いやないからな。いつもジャージやけど」
「でもたまにぐらいでいいですよ、村上先生のスーツ姿は」
「どういう意味やねん」
軽く叩かれた。
ドスン。
「・・・・・・え、」
もちろん、叩かれただけでドスンという音は鳴らない。そんなもん死んでしまう。
音の発信源は言うまでもなく、2階だった。
「・・・誰かおんのか?」
不思議そうな顔で村上先生が私を見る。
「家鳴りだと思います。たまにあるじゃないですか、家鳴り。誰もいません」
「・・・そうか。ならええけd」


ジャーン。Cコード。
ジャカジャカ。Eコード。
ジャンジャン。Fコード。


「・・・・・・」
あいつらほんとに殺してやろうか。
「・・・ギターの音がすんねやけど?」
そう言う村上先生はもはや不思議そうな顔ではなく、不審そうな顔をしている。
「・・・隣の家にね、ギターが大好きな男の子が住んでるんですよね。音漏れですねきっとね」
「2階から」
「その子の部屋が2階だからそう感じるだけじゃないですか?」
「・・・・・・。ほんまに本当のこと言えよ。誰かおるんちゃうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・本当のこと言うと、ですね、」
「おう、言ってみ」
「・・・・・・・・・・・・ポルターガイストが、起きてまして」
「邪魔するぞ」
「ちょっと待って!!!!!」
「なんでお前はそういうしょーもない嘘をつくか!」
やっぱりだめだったか、ポルターガイストは。
「そんなん言われるくらいなら直接確認したほうが早いやろが!」
「ほんと困るんです今だめです!」
「なにがだめやねん!入れろや!」
「入れられません!ほんとに!」
「やましいことあんねやな!?」
「ありません!!」
「ほな何があかんねん!!」
「だって、」






「コラーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」






階段の上からやけに通る声が響き渡った。
「・・・・・・」
・・・っつーか、なぜそんなにビブラートがかかっているんだ。
村上先生は階段の上を見上げて、思い切り眉をひそめた。
「なんやねん、お前ら」
村上先生、頼むからそんな順調に話を進めさせないでください。
その問いに待ってましたとばかりに、彼らは言う。



「女子高生の一人住まいの家に訪問販売やなんやと押し入って」
家庭訪問だよ。
「挿れる挿れへんの押し問答」
間違った漢字に変換してんじゃねぇよ。
「その姿、もはや聖職者にあらず汚職者にあり」
教師は別に聖職者じゃねぇし聖職者の対義語は汚職者じゃねぇしそもそもそんな言葉ねぇし。



トントントン、3人分の足音が階段を下りてくる。



ぐいっと首に腕が回る。高さ的に、たぶんユウ。その姿勢のおかげで振り向けない。むしろ許されるならずっと振り向きたくない。
現実って、なんでこうなんだろう。



「おい不審者!」
お前らが言うなよ。
「俺らを誰やと思とんねん」
知らねぇよ。
「俺らの従兄妹に手ぇ出すな」
「そこではボケねぇのかよ!!!」









(07/13)