始業のチャイムが鳴っても、その席には誰もいなかった。

僕の席の2つ隣のひとつ前、ぽっかりと空いた席はの席だ。
いつも僕より早く登校していて、僕に最初に「おはよう」と言ってくれて、僕が最初に「おはよう」と言うがいない。
教室に入った時点でその姿が見えないことに あれ?とは思った。少し待って見たけどそのまま5分過ぎても彼女は現れない。
そうこうしてたら友達に「おはよう」と言われて反射的に「あ、おはよう」と返してしまって、あ、に言う前に言ってしまった、と勝手にへこんだ。
今日当てられるから、と泣きついてきた友達にノートを貸したりしながら、の席と教室のドアを何べんも交互に見ても、一向に彼女が現れる気配もしない。
そして始業のチャイムが高らかに鳴り響く。

ちゃん、遅刻ですよー・・・」と小声で呟いてみても本人不在。


一分後に教室に入ってきた担任の口からあっさりと告げられたのは、「は風邪で欠席なー」という衝撃の事実だった。









化学の授業は上の空、体育の授業も上の空。
どちらも得意科目なだけに担当の先生とは軽く気まずいけど、それよりももっと考えることはあるんだ。


そしたら誰かが思いっきりサーブしたバレーボールが僕に向かってきて、




思いついてしまった、とても自虐的な作戦。










安田!!!と誰かが叫んだ。意識が遠のきそうになって、でも本当にブラックアウトしちゃったら作戦はパァになる。
しかしあのサーブはちょっと強すぎだ。スパイクじゃないんだから。あんなん顔面に食らったらたまったもんじゃない。わかってて食らったんだけど。
ひりひりじんじんずきずきする顔面で体育の先生に「保健室行ってきていーですか?」と尋ねれば、即答でOK。よし、作戦成功や。


保健室へは向かわずに(こんなん冷やせば治る)、教室へダッシュ。かばんから携帯を持ち出して足音を立てないように屋上へ上がる。




もしもし、というの声はかすれていていつもより低くて、痛々しいけど色っぽかった。


「・・・・・・」
『・・・・・・あれ?』
「・・・・・・」
『・・・・・・ え、もしもし 章大?』
「・・・・・・


時折聞こえる咳き込む音。大丈夫?熱はどれくらい?しんどいやろ?聞きたいことはあるけど声が出てこない。


『うんだよ、  章大 どうした?』


どうした、じゃない。
が風邪ひいたっていうから心配した。それだって担任から聞いて初めて知った。昨日の夜電話したときに、具合が悪いなんては一言も言っていなかった。
昨日の時点で言ってくれたからって僕に何かができたわけじゃないから、きっとどっちにしてもは今日学校を欠席していただろう。けど。

「今から行く」

は?という声を聞いて、答えずに電話を切った。
ごめん。会いたいから会いに行くだけだから。



走りながら、これで怒る人は何人いるんだろうと考えた。
とりあえず担任の先生と体育の先生、あと昼休みに辞書を貸す約束をしていた村上くん、



あと、
多分、怒る。どつかれるかも。



だけどわかるよ。その後絶対、は笑う。






A.M.10:10 真っ赤になった鼻を見て、笑わない君ではないはずだから