ギラギラ光るネオンライトがそこら中に散りばめられている。夜は輝き、昼は静まり返るこの町。
は実に10年ぶりに、この町に足を踏み入れた。
隣町との境界線は目に見えたものではないが、空気でわかる。明らかに周囲から浮き上がっている町。
10年前、まだ9歳の子供だった時分にこの町を出たのに、自分の肌はこの町の空気を驚くほど覚えていた。・・・景色は、ともかく。
少しの毒を含んだような風は、すぐにの肌に馴染んでいく。



クラブの入り口にたまっていた若い男たちが、その前を通り過ぎるにからかうような声を掛けてくる。もちろん無視。相手をしていてはキリがない。時間の無駄だ。
・・・まぁ、時間がない、わけではないけれど。自分の帰宅を待っているひとがいるわけでもないし、・・・そもそも、家だってないわけで。そういう意味で、制限時間のようなものは全くない、けれど。
だけど、には目的がある。そのためだけにこの町に戻ってきたのだから。



それにしても。はくるりと周りを見回す。
壁には落書き、路上にとめられた車は荒らされたまま。まったく、この町はボロボロな姿を隠そうともしない、ある意味潔い町だ。
この町は自由の町。法律なんてありはしない。警察はいわゆる第一級犯罪のときにしか動かない。小さな事件にいちいち関与していたら、人員がいくらあっても足りはしないからだ。
その裏返しに、誘惑はいくらでもある。喧嘩、事故、傷害、薬。それらはこの町にはあり溢れ、甘い香りをさせて近づいてくる。誘惑と、その裏にある厳しさ。誘惑に手を伸ばすのは簡単だけど、すぐに厳しさにぶち当たって後悔する。そして後悔したときには間違いなく手遅れなのだ。だからこその後悔。
ふと視線を遣った道路の向こう側の歩道で、男二人が顔を合わせるなり揉め始めた。
あれだって日常茶飯事な光景で、今この瞬間この狭い町で同じような喧嘩がいくつ起こっているんだかわかりやしない。
こんな町で平和に生きる手段は、ないに等しい。



だからといってこの町を出さえすれば必ずしも平和に生きられる、というわけではないけれど。







「オイ!!!」



怒鳴り声には一瞬身をすくませた。
どうやら怒鳴り声を発したのは今しがた見た男2人のうちの1人のようだ。もう一度ちらりとそっちを見る。
揉めている男が二人。そしてそのうちの一方が怒鳴っている。つまりその対象はもう一方の男である、はずなのだが。
男はまるで驚愕のような表情を浮かべていた。少なくとも、怒りは含まれていないように見受けられる。男が見つめているのは、道路を挟んだ向こう側にいる・・・だった。
「・・・・・・え、」
その坊主頭の男は、の知り合いではない。そもそも10年前にこの町を出たには覚えている人間自体が少ない。
なら、どうする?
会話・・・はできるだろうか。この状況で?この場にとこの男との二人だけだったらまだ成り立つかもしれないが、もう一人いる。今まで言い合いをしていた背の低い男。彼はわけのわからないような顔で戸惑っている様子だ。彼をさらに放っておきながら普通に会話ができるのか。・・・たぶん、できない。言い合いの様子から察するに、ふたりともなかなか血の気の多いタイプのようだし。
だったら中途半端に相手をするよりは、ということで、は男を無視してまた足を進めた。
このまま終わる、わけがない。
案の定「待てよ!!」と叫ぶ声が聞こえた、と思ったら別の男(おそらく今まで対峙していた男だろう)の「テメェが待てや!!」という声がかぶさった。
つまり、男はを追いかけてきている?
は嘘でしょ、とため息混じりに呟き、走り出した。逃走。
「ちょっと待てって!!」
嫌だ。頼まれて止まったところで何がプラスに転ぶというのか。
坊主頭の男をちらりと振り返ると、ちょうど男はガードレールをまるでハードルのように飛び越えたところだった。
こうしては見知らぬ男とわけのわからないまま追いかけっこを始める事となった。



リアル鬼ごっこ。



面白くもない。








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