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秒針の音だけが静かな空間に響く。 求めていた、だけど予想していなかった錦戸の言葉に、 だけど何故か、あたしは何も言うことができずにいた。 錦戸はそのまま無言であたしの手をとった。 温かい手。 ぐ、と力を込めてその手を引かれたけれど、あたしは動くこともできなかった。 仁があたしを強く強く、抱きしめたからだ。 「・・・っつっても、さ。今更じゃねえの」 仁が言う。 「がお前のせいで傷ついたってのムシしてテメェの勝手なことだけ今になって言って、それで話がめでたしめでたしで終わるとでも思ってんのかよ」 声が、二重に聞こえる。 聴覚とは別の部分で(どこだろう、それは)、もうひとつの声が副音声のように頭に、心に、流れ込んでくる。 ――――ひとりにはなりたくない ――――ひとりに、しないでよ 「のこと、もう絶対に傷つけないとか二度と離さないとか、言えんのかよ」 「・・・言」 「言えるわけねぇだろ!言えるわけねぇんだよ、だってお前生きてんだからさ。もうお前の世界には大事なもんが溢れてんだよこれからも増えてくんだよ!今はどうか知んねぇけどさ、いつか絶対・・・絶対にお前の中でが一番じゃなくなるときが来んだよ」 ――――だって、だけど、俺には 「生きてるってのはそういうことなんだよ。俺とお前の違いなんて未来があるかないかってだけだ、俺にはそんな未来なんてねぇんだよだからずっとのことだけ見てられんだよ永遠に!!」 ――――俺には、 ――――やっと見つけた、しかいねぇから ――――だからこそ、ずっといっしょに 例えば。 例えば、あたしが仁と一緒にいったら、 あたしの人生はそこで終わる。破綻する、といった方が正しいのかもしれないけれど、とにかく終わる。 あたしの未来は掻き消える。それどころか過去もなくなるだろう。 現在とも呼べないような、ただ同じ時間、途方もない時間の中に閉じ込められる。取り残される。いつまでかもわからないまま無限回巡のような空間に。 仁がそれまでひとりきりだった、あまりに寂しい空間に。 毎日変わらない現実。変わらない生活。 この世には関心のないもので溢れかえっている。 錦戸と出会って、 別れて、 悲しかった。涙を流した。 けれど、 そんなものかと諦める術はもう持っていた。 錦戸を選ぶということは、この世を選ぶという事。 仁を 選ばないということ。 そうしたら、きっと仁は消えるのだろう。 仕方がない、と そもそも20年前に死んでいる人間だったのだから、 そんなことは、どうしようもないことなのだと 諦めることが、できる? ――――、 「・・・できない 」 、と錦戸が呟くようにあたしの名前を呼ぶ。 手を、痛いほど強く握られた。 「ごめん 錦戸、 ごめんね」 「待てやお前、何言っとんねん」 どうしてあたしは走ったの? 約束したから、約束を破りたくないから、そんな人間でいたくないからというだけで、 錦戸を振り切ってまで、この部屋に帰ってきたの? ・・・違うよね。 仁の涙を、見たくなかったから。 いい加減 気付けよ、あたし。 「仁のことが、 好きだ から」 「ふざけんな!!お前死ぬんやぞ!未来捨ててもええんか!!!」 錦戸が怒鳴る。見たこともない表情で、本気で怒鳴っている。 当然だ。あたしのした選択は、彼から見れば、世間から見れば、世界から見ても、間違っているだろう。 現実は嫌いだった。未来の展望などなかった。これから先の途方もない時間を思って、辟易していた。 それでも、生きるべきなのだ。 仁から離れて、涙を流して、彼を見送って、錦戸の腕の中でまた涙を流して、錦戸と一緒に未来へと歩き出す。これが正しい道なのだ。 だから、それを選ばないあたしは、きっと間違っている。 だけど、あたしが欲しいのは正解じゃない。 もしかしたら、未来でもない。 少なくとも仁が求めているのはそれらじゃないのだろう。 仁が求めているのはあたしだけ。 仁が求めることができるのは、あたしだけなんだ。 「そうじゃないの、錦戸。未来捨ててもいいとか、死んでもいいとかじゃなくて」 死にたいわけじゃない。 むしろ死にたくない。死は、怖ろしい。 ただ、 ただ。 「 仁と一緒に、いたいだけなんだよ」 その結果が死だとしても、 それだけ、なんだよ。 「」 仁の腕の力が強く強く、増した。 「、 ごめん、 俺 、」 ――――のこと、殺す ――――ごめん 「 いいよ」 永遠に、こんな風に抱きしめていてくれるのなら。 もしくはそれを、 永遠 と 呼ぶのなら。 錦戸の手がするりと離れた。 「・・・・・・」 苦しそうで、辛そうで、悲しそうな顔。 そんな顔も、見たことがなかった。 なんだ、 あたし、錦戸のこと何も知らなかったんだね。 「お前は それで、 ええんやな」 あたしは頷いた。 「ありがとう、錦戸」 好きだと言ってくれて。 こんなわがままを聞いてくれて。 その痛みに、耐えてくれて。 「ありがとね」 きっと、これが最後。 「仁、」 腕の中で、くるりと仁と向かい合う。 その体は濡れていない。・・・もうきっと、ずぶ濡れになることなんてない。 涙がぽたり、彼の目から 落ちた。 仁の首に腕を回す。 仁の冷たさが、腕から馴染んでいく。まるで溶け合うかのように。 溶け合って、 ひとつになって 「 愛してる 」 あたしの物語は、終わった。 (03/07 やってしまった・・・) |