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2DKの部屋はちょっと駅から遠いとかでも線路が近くにあってうるさいとかそういう条件が重なってわりかしお安く借りさせてもらっている。エレベーターがないくらいなんてことはないでしょう?(4階だけども) 家具は色調を合わせてシンプルに、だけど床に敷いたラグはちょっとこだわって選んでみた。 赤くて毛足の長いそれは触り心地も座り心地もなかなかで、この部屋のアクセントであり一番のお気に入りだ。 だけど、だから、とりあえず、 「水たらしながら歩き回るのやめてくださーい・・・」 バスタオル2枚をもう絞れてしまうくらい水びたしにして、3枚目でようやくずぶ濡れじゃなくなった幽霊青年は「あーなんかすっきりしたー!」ときらきらした笑顔で笑った。 (そう、彼はとても美形だった。だけどバスタオル3枚はやっぱりちょっと異常だ) 「・・・で、」 「で?」 「どうしたら気持ちよく帰っていただけるんでしょうカネ・・・」 とりあえずと思って出したお茶を普通に飲みながら (飲めるんだ!) 幽霊青年は首をかしげた。 「いんじゃねとりあえず、それはまぁそのうちって感じで」 「よかぁねーよ!」 男を部屋に連れ込んだこともないってわけでもないし(幽霊は初めてですが)今はいい。だけどいつまでってなると、いろいろ複雑です おんなのこ。 名前もわからない幽霊青年。「名前?え、忘れたけど?」ってそんなあっさり答えられても困ります正直。 「・・・ねぇポチ」 「え、 ポ チ ! ?」 「呼び名がないと不便」 「つってもポチって・・・」 「・・・・・・ゴン」 「・・・・・・はい」 「(ゴンはありなのか) ゴンはさぁ、何がしたいわけ?ですか?」 このマンションの部屋一個一個、全ての部屋のチャイムを鳴らしたというゴン。 誰かを探しているとか、それともただの悪戯心なのか、生きている人間であるあたしにはわからない。 だってそのチャイムは、誰にも聞こえないのに ? 「そもそも幽霊ってなんかこの世に未練があるとか、そういうアレがあるってテレビなんかじゃ聞くけど」 ゴンはお茶を置いて、空を睨むようにして考えこんだ。 「・・・・・わかんね」 「・・・わかんね?」 「つーか忘れた?」 「忘れた!??」 「あー、うん、忘れたっぽいわー・・・うん、忘れた忘れちった。なんで死んだどうやって死んだどこで死んだ全部忘れた」 「えー・・・なんか放棄してないですかー・・・?え、ちなみにあのー そうなって、どんくらい?」 「20年」 、20年。 (そこは覚えてるんだ・・・) あっさりと口にするけれど、その単語を、彼は。 だけどあたしを絶句させるには十分だった。 それはあまりに長い。 ただわからないことを考えて、どこへ行くでもなく彷徨い続けているには、あまりに。 「・・・やっぱわかんねーんだわ。でーも俺、今、初めて嬉しいって思ってんのね。初めてって、つまりあのー」 「幽霊になってから、初めて?」 「そうそう、それ。それ以前は知んないけど」 「・・・・・・」 「こうやってさー、誰かと向き合って話せてるってゆーの?それが、すげえ、あのー・・・・・・すげーことなワケよ!俺にとっては!このお茶ウマいし!ウマいって もうなんか こうやって、あったかいお茶口に入れてとかすんのも初めてなの!わかる!?」 ・・・わかんないよ。 彼は泣いているようだ。まくしたてるように喋りながら、幽霊が、泣く。 涙を流さずに、彼は泣く。 「マジ嬉しいんだって、今こうしてる瞬間、俺死んでんだけど生きてる気ィするもん!生きててよかったーとか思うわけ、死んでんのに」 じわり、じわり。 意地になってるみたいに死を強調する彼の体がまた水びたしになっていく。それが涙を表していることは、きっと彼自身にもわかっているんだろう。 それはとても異様な光景。だけど。 「・・・座布団濡れちゃってんじゃん」 「・・・あ、ワリ」 「・・・・・・乾燥機の使い方教えるからおいで。次からは自分で乾かしてよ」 そう言って、その手を取ってしまったあたしだって、絶対に異様なのだと思う。 びっくりした顔のゴンはあたしを見上げて、聞こえないぐらいの声で「いいの?」と呟く。 あたしははっきりと「いいよ」と答える。 他の誰にも聞こえない彼の声。 答えられるのはあたしだけ。 座布団カバーとバスタオル3枚が入った乾燥機が回る深夜3時。座布団そのものはベランダに出しておいた。 6時間後には大学だとかほんと最悪です。 あーてゆーか講義さぼっちゃおうかなぁ・・・ ベッドに入って布団を被って目を閉じる。さてあとは意識を落とすだけだ!寝るよ!ちゃんは寝るよ! 「ちょっと待てちょっと待てちょおっと待て」 「えー?」 「えー じゃねえよ。何してんのかなゴンちゃんは」 被った布団をぺらっとめくってベッドの中に侵入してくる馬鹿がいた。 「いいじゃんよ もー入れて 入―れーてぇー」 「あたしまで濡れるだろうが!」 「もう俺乾いてますーさわってさわって」 「・・・ほんとだ (なんで!)」 ひんやりと冷たい体は幽霊のくせに何故か実体があるようにそこにしっかり在って、後ろからぎゅーっと抱きつくみたいにするゴンの力は普通の男よりも強いくらいだった。 抱きつかれているとはいえ実体のない彼だ、あたしにとっては何にも触れている感覚はない。 それなのに耳のすぐ後ろから声が聞こえて、なかなかぞくりとする。 ただその声で言うことは、他愛もないことだ。 「朝ご飯フレンチトーストがいーなー」 「食べなくてもいいんでしょアンタ」 「んーでも食べれるもん、」 なんたる図々しさ! 家に上げたことを後悔なんてできない(なんせこいつは勝手に入ってきた)けど、ちょっと自分緩すぎ?なんて思わないでも、ない。 どうしたっておかしいあたしの状態を気にもしないで(まぁそりゃそうでしょうね)ゴンはすぅすぅと寝息を立て始めた。 同じ年頃の男と一緒なんて、ドキドキして眠れない! なんて思えるほどに女の子らしければなぁ。追い出す理由も見つけられるのに。 ドキドキどころか、鼓動の音を感じる間もなくあたしは眠りにおちましたけども(だって深夜3時!)。 さて 朝起きたら昼でした。 ・・・何だろう、この矛盾した日本語。現実? (03/13 テンションがわからない) |