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「俺思ったんやけど、」 少し走って、高速道路に乗ってからすぐだった。 それまで黙っていた錦戸が口を開いた。 「お前ってこんなにアホやったっけ?」 「・・・・・・えー・・・・・・・・・どんだけアホに見えますかね、錦戸さんに、あたしは」 「量り知れんほどに」 「・・・それは壮大な」 「ああ、めっちゃ壮大やなお前のアホさは。関東平野も鳥取砂丘も真っ青や」 「・・・・・・」 ミュージックチャートは25位の曲を流している。もう3ヶ月くらい前に出された、ロングヒットのポップなナンバー。 スピードメーターは時速80km、を多少オーバー。土曜日の昼、渋滞に引っかからないのは稀な幸運だ。 「あのさー、錦戸は ああいう、やつ が昔から見えたの?」 「たまに。無視し続けてたらいつの間にか見えんようになってたけど、あいつはめちゃくちゃはっきりわかったで」 「・・・ふーん、」 今更その話を疑う気にはならなかった。 だいたいあたしを置いて二人で会話を開始し勝手に険悪なムードになっている二人の姿 (ふたりの、すがた ?)を見た後だ。疑う余地もない、と言った方が正しいかもしれない。 それに、電話口でもわかるくらいなのだから、もしかしたらあの部屋はあたしにとっては湿度が高いだけの部屋だけど、錦戸にとってはもの凄く不快感溢れる部屋になっているのかもしれない。 「で、なんなんあいつは、元知り合いとか?」 「全然。ゴンが亡くなったのは20年前だって言ってたから、生前の関わりなんかも一切ナシ」 「・・・ゴン、ってあいつの名前?」 「え、ううん、それはあたしがつけたんだけど」 ・・・あ、ため息ついた。 錦戸は(運転中なので)正面を向いたまま、それでも器用なまでに的確にあたしの頭を叩いた。 「イタッ!」 「・・・あーもーどこまでもアホやなお前は」 苛々した様子でそのまま煙草に火をつける。一口大きく吸って、吐いて。 「お前が一番あいつの存在認めとるんやないか。ああいうのはこっちがその存在を認識すればするだけはっきり出てくるようになるんやぞ。あいつがお前んちに居つくようになってどんくらいや?」 「・・・4日目、くらい?だいたいだけど」 「初めてあいつのこと見たときより、今のがはっきりしとるやろ。・・・なんつーか、もう、生きた人間と同じように見えたりとかするんやろ」 「・・・・・・」 それは、その通りだった。 もうゴンはあの日のようにずぶ濡れな姿になったりはしない。体温はないけれど、それも感じさせないくらい自然にあたしの部屋にいる。 モノクロが次第にカラーになっていくような、そんな風に。ゴンはあたしの生活に馴染んでいた。 「・・・・・・錦戸さぁ、なんでそんなに詳しいの」 「じいちゃんの受け売りや。俺がガキの頃に変な物見えるって言うたら、それはこういう風やからとにかく無視しとけってな。無視せなあかん、まともに相手して下手に依存でもされたら『持ってかれる』って。意味、わかるやろ?」 「・・・『持ってかれる』、」 「『持ってかれる』で、お前そのうち、あいつに」 意味も何も、考えるまでもなく明白なその言葉。 ゴンが、あたしを、 「殺すっていう、こと?」 返事は煙草の煙と、何度目かのため息。 さすが土曜日、らー博は驚くぐらい混み合っていて、その混雑を見た錦戸は(言いだしっぺにも関わらず!)「あ、もーええわ、よそ行こ」などとあっさり言ってのけた。 「・・・えええー・・・」 「なんやお前食いたかったんか?」 「いや、・・・錦戸さん忘れてるかもしれないけどあたし、らーめんそんなに好きじゃないですよ」 「あ、やっぱり?なんかそんな気ぃしとったねん、言うとったよなーって。じゃあちょうどええやん」 まぁそうなんだけど。 結局横浜をドライブして、中華街で肉まんとか豚まんとかを買い食いした。それはそれでおいしくて、気温もそんなに低くなかったから、楽しかった。 楽しい、 楽しかった。そう。付き合ってるみたい。付き合っていたんだからそれはそうなのかな。そう考えてから、あら?と思考が立ち止まる。 考えてみれば付き合っていた頃なんて、あんまりこうやって遠出したりしなかった。ダーツやビリヤードには2,3度行ったけど、やっぱり基本的に室内。あたしだって(下手だったけど下手なりに)楽しかったし、それに不満もなかった。でも、だからこそ今こうして一緒に歩いているのは、新鮮で楽しいのかもしれない。 危ないで、なんて人とぶつかりそうになったところをかばってくれたりとか、足疲れてないか?なんて時折訊ねてくれたりとか。そうだ、錦戸は優しいんだったね。そう再認識したころには、日が傾きかけていた。 「今日俺ん家で夕飯作って。ええやん、久しぶりに」 赤い袋に入った甘栗を二人でつまみながら、駐車場に向かう道。錦戸はそう言って、あたしは頷いた。 (03/29 錦戸の知識は管理人のでたらめです) |