ねぇ、見えていますか、

雨雲のせいで見えませんか、




こんなに小さな私は、見えませんか?





















涙 雨
























屋上の、腰までの高さの柵の向こう、1メートルくらいの縁に座り込んで、ひたすらに泣いた。
本当は、やらなくてはいけないことはたくさんあった。
そのどれも結局しないまま、厚い雨雲の向こうにそれでもたしかに存在している太陽が、誰にも見られないままに沈んでゆく。
夜が、やってきてしまう。








雨で溺死ってできるのかな

涙で溺死、できるのかな

できるとしたら、私はきっとこのまま死んでしまう
どっちだろう、雨と、涙と
私を先に殺すのは








殺されるのを待つ必要なんてなくて、ただ20cmも移動すれば私はあのグラウンドに叩きつけられて死んでしまう。死んで、終う。
それでもいいような気がして、だけどそれほどの勇気がわかなくて、どうしたらいいのかわからなくて。
ただただ泣いていた。












だから、ずっと気付かなかった。












私の頭上に差しかけられた、紺色の折り畳みの小さな傘に。
全身がもうずぶ濡れだった。
だけど一定点を越した頃から、体に雨水がぶつかる事はなかったことに、ようやく気付いた。








振り返る。
紺色の、折り畳みの小さな傘。
本当に小さなそれは完全に一人用で、二人の体を空から隠すことなんてできない、とても見覚えのある傘。







「・・・・・・亮・・・・・・」







それを柵越しに私に差しかけている亮は、もちろん雨から身を守ることができなくて、私よりもっとずぶ濡れだった。着衣泳をしたと言っても誰もが信じるくらい、完膚なきまでに濡れていた。
「いつから、いたの・・・」
その質問には答えず、そもそも亮は私のことを見てもおらず、じゃあどこを見ているのか、



空を見ていた。



「・・・・・・、」



そのまま、私の名前を呟くように、だけど確実に呼ぶ。





















「   一緒に、飛んだろか」









































好きな人が、死んでしまったんだ。





それはたぶんこの世界で、毎日必ず誰かの身に降りかかっている、神様から見たら、とても小さな出来事で。
彼に死についてもそう、悲しいのは私一人じゃなくて、たくさんのたくさんの、たくさんの人が悲しんでいる。亮だって悲しんでいる。もしかしたら彼だって悲しんでいるのかもしれません。



だけど今、彼との記憶に一番多く映りこんでいたこの屋上に、
私は一人で、どうしようもなくひとりで、独りだった。



そう思っていたのに、気が付かないうちに、



私は二人で、どうしようもなくふたりで、独りじゃなかった。



























「あいつの葬式、行ってきた」





「お前来んかったけど、あいつ怒ってなかったし、」





「・・・俺な、」





「お前んことは任せてくれって、俺、あいつに頭下げてきてん」
















の為なら何でもしたるから、


どんなときも、どんなことがあっても、絶対守ってみせるから


ちゃんと見つけるから、


絶対独りにはさせへんから、





そう、約束するから





頼むから、のこと、俺に任せてくれな


























「だからな、」
ふっ、と微笑む。












、  一緒に飛ぶか?」












そう、もう一度言って、亮はやっと涙でぐちゃぐちゃな私の顔を見る。



「・・・・・・・・・」



その体を打ち続ける雨に隠れてしまったように見えるけれど、



亮は、泣いていて。



それなのに、微笑んでいて。







胸が痛くて、飛ばなくたってそれだけで死んでしまえるんじゃないかと思うくらい、苦しい。






だって、わかってしまった。





亮はきっと、私を探し回って、ここに辿り着いて、
こんなふうになるまで、ずっと傘を私に差しかけて。
私が独りにならないように、
私が彼のところへ飛んでいかないように、
空から、・・・空にいる彼から、私のことを隠し続けていた。





そして今、「一緒に飛ぶか」と。





最後まで私を一人にもひとりにも独りにもさせまいと、そう言った。



























「      ううん、 大丈夫」







独りじゃない。





だったら、飛べない。










「 ありがとね・・・ 」








































彼はよく歌っていた。
彼はギターが上手だった。
彼は行儀悪く煙草を吸って、行儀良くその吸殻を携帯灰皿に入れて持ち帰った。
全部、この屋上で。




ここにいた。
彼は、音楽とマルメンと、たぶん私を愛して、ここにいた。

















ねぇ、一人は寂しいですか。
そこは、寂しいですか。






私は、寂しい。
あなたがいなくなって、どうしようもないほど、寂しい。






だけど、独りじゃない、みたい。
あなたも、独りじゃないよね。





私はそこにいます。
だけど私はここにいます。







私は、



私、たちは。





もう、あなたから隠れたりしないよ。




































ゆっくりと立ち上がる。柵を乗り越えて、亮の腕を掴んだ。
冷たい、芯から冷えきったその腕。



この腕が、私を独りにはしない。






涙は止まっていた。


亮の涙も止まっていた。













雨だけが、降り続く。













これが彼の涙でないことだけを、ふたり、そっと祈った。





































(03/29 相互記念にsora様へ捧ぐSSです。
切なく、というリクエストだったのにそれを意識しすぎると暗いだけの話になるしってゆーかどことなくMISSとかぶってる系な気がする系だし、これを押し付けられたら逆に迷惑なんじゃ・・・とか思うんですけど、これが葉月の精一杯でした・・・!
sora様のみお持ち帰り可!(いらなかったら・・・そっとしておいていいので・・・>>sora様) )