やたらと高い天井、柔らかいベッドはまだ冷たい。
覆いかぶさった彼が何度も首にその唇をあてる。



「・・・喰われてるみたい」



呟くと、彼は顔をあげた。
「お前が、俺に?」
「そう。ライオンとシマウマみたく」
「あは、俺そんなにがっついてるんだ」
「早いんだよ、展開が」
「二人だけになれたと思ったら止まんなくなっちゃってさ」
「逃げたりしないのに」
わかんねぇよ?と彼は言うけど、本当はわかりきっているんだろう。私は彼に送ってもらわないと帰ることもできない。「逃げられたことなんてないんでしょう」と尋ねたら、「誰も逃げなかったんだよ」と悪びれもせずに言う。
「でも、なんか逃げたそうだから」
「そう見える?」
「見える。だからほんとは手とか縛っちゃいたいもん」
「必死すぎでしょ」
「男はいつでも必死なのー」
嘘つけ。
手に入れてない物なんてもうないくらい余裕たっぷりな顔で笑っておいて、彼は私のひたいにキスをした。
「・・・ほら、早い」
「シャワー浴びたかった?」
「そういうわけじゃないけど」
「電気くらい消してほしかった?」
「・・・そういうわけじゃないけど」
じゃあなんだよ、と笑って彼は私の左頬に手を添えた。



「おあずけすんの?」



そうじゃない。丁寧に、傷がつかないようにと優しく扱われるのが心地いいのはわかっている。それにこんないい部屋で柔らかいベッドを使えるのはきっと、一生のうちで今日だけだ。私には彼とは違って余るほどの金も車も後ろ盾もない。



それにきっと、彼に会うことだって二度とない。



住む世界が違うんだ、そもそも。たまたま人を介して知り合っただけで、会うのは2度目。3度目があるような気はしない。今日が終われば、もう一度会いたいと思ったとしてもそれを言ってはいけないと思う。だったら、たった一夜のシンデレラ気分を存分に味わって、女の扱いに慣れている彼にうんと優しくしてもらったらいい。



「・・・おあずけできるの?」
「んー・・・たぶん無理かな、そろそろ」
「私じゃなくてもいいくせに」
「うわ、ひでぇ印象」
「今からでも新しい子、捕まえられるでしょ」
「だけど今夜はがいい」



本当にライオンとシマウマだったら、どれだけいいだろう。私たちはどうしたって人間と人間で、喰われて死ぬことなんてできない。何もないのに。明日にはもう何も残っていないのに。



つまんないな。



だったらいっそ、このまま首を噛み切って殺してくれないかな。



「じゃあいいよ」
「・・・喰っていいってこと?」



耳元で囁いて、ついでみたいに耳を舐めた。ぞわっとして息を呑む。まだシャツを脱いでもいない彼の背中に腕を回すと、彼が笑ったのがわかった。


おあずけされてるのは、こっちの気分だ。









「一雫も残さず食べれるならね」






ONE DROP