星に願いを掛けたところで、それが叶うなんて少しも思っていないけど。


テントの中は狭くて圧迫感があって、品切れかなんなのかXLサイズしかなかかったので仕方なくそれに決めた寝袋を通しても背中が痛い。
ランタンを消した暗闇の中でも、元々夜目が利くのと月明かりのおかげで、隣を向けば同じように寝袋に包まったの姿が見える。視線に気付いたも僕の方を向いて、嬉しそうにくすくすと笑った。
キャンプ場でも何でもない、家からバスで30分の距離にある小さな山。

突然「天体観測がしたい」とが言い出したのは、今日の昼だった。
「・・・いつ?」
「今日」
「今日!?」
「天気いいじゃん、絶対今日は星が綺麗だよ」
なんて、それこそ星でも入ってるんじゃないかと言いたくなるようなキラキラした目でが言うものだから僕までその気になってしまって、そのまま二人でホームセンターへ行き、安いテントとランタンと寝袋二つを購入。コンビニで食料も買って、バスに飛び乗った。


「隆平、」
内緒話をするみたいな小さな声でが言う。「あたし こういうの初めて」と、また、あのキラキラした目。
「え、キャンプとか行ったことないん?」
驚いて聞くと、ない、と即答。どうりでテントを張るのに時間がかかったわけだ(それは僕にも原因があったのかもしれないけど)。
だからなのか、今日のはいつもよりテンションも高く、子供っぽく見える。
「ねぇねぇねぇ、」
「ん?」
「寝袋って、二人入れるかな?」
え、と言葉を失う僕を尻目に、はさっさと自分の寝袋から抜け出して僕の寝袋のファスナーを下げてしまう。外の空気はひんやりとしていたけど、それを冷たいとか感じる余裕なんてあるはずもなかった。

XLだから平気そうじゃない?なんて言いながらはもぞもぞと僕の寝袋に入ってファスナーを戻してしまう。
XLサイズとはいっても二人が入ることなんて想定して作られているはずのない寝袋は、さすがに窮屈だ。したがって体の密着度も半端な物じゃない。僕の心臓が動くスピードも半端な物じゃない。
どうにかしてそれから意識をそらそうと、息がかかりそうなほど近くにあるの顔から視線を外す。が小さく笑った気がした。

「・・・・・・なんでいきなり天体観測なん?」
強引に切り出した話だったけど、昼間からずっと思っていたことでもある。
はうー、と唸って考えて、「昨日バンプ聞いたからかな」ととてもわかりやすい答えを述べる。
「ははっ、そうなんや」
そんな気はしたけど。笑いながら言うと、も やっぱりわかった? なんて小さく笑う。そして、でもね、と続ける。
「でもね、肝心な望遠鏡のこと すっかり忘れてたの」
「・・・あ」
そういえば、そうだ。というか望遠鏡まで買えるほどの予算も持ち合わせていなかった、正直。
「あー・・・ほんでも じゃあ一応外、出てみる?」
望遠鏡がなくたって星は見える。むしろ広い視野で、より多くの星を一度に見ることができる。
だけどは首を横に振った。
「ええの?」
「いいの。テントに入る前に十分見たし、願い事もしたし」
願い事。
ひとが星に願いをかけるのはどうしてだろう。その輝きと、手には届かないというところから、神様なんかと同列に見なすのだろうか。
存在するかもわからない神様と、途方もなく遠い場所で燃えカスになっている、ただの岩を。
それを言うと、
「隆平ってロマンチストなのかリアリストなのかわかんないよね」
とわざとらしく呆れたような顔をしてみせた。
その顔はやっぱり普段は見せないような子供っぽさで、それが面白くて可愛くて 愛しくて、
とがらせた唇に、軽いキスをした。
早くなっていた心臓の音は、満たされた幸福感に覆われて、すっかりいつもどおりに戻っていた。
は目を瞬かせて呆気に取られたように僕を見つめる。
「・・・それで、何願ったん?お星様は叶えてくれそう?」
その視線に恥ずかしくなった僕は、無理矢理話を元に戻す。そんな僕の様子にはようやく笑顔になって、

「  もう叶った」

とだけ 言った。





P.M.11:11 あの星と君は案外近いみたいだ