「気付かないふりとかさ、なんになんの?」 ファミレス、午後3時、テーブルの上には伝票とドリンクバーのグラスとさっきが食べ終えたチョコレートアイスの皿。ドリンクバーのグラスは空。 え?と顔を上げたは窓から入る夏の日差しを眩しそうに受けている。 「なにどーしたいきなり。アレ?もしかしてアイス食べたかった?言えばいいのにー」 「ちげ」 「あ、ドリンクバー取ってくるけど智久いる?カラじゃん」 「・・・・・・あー・・・うん、コーラ。じゃなくてアイスティー」 「よしわかった、コーラとアイスティーを混ぜてこよう」 「ヤメテ!」 にやっと笑ってペタペタとサンダルを鳴らして歩いて行く後姿に息をついた。まさか本当に混ぜてはこないだろうけど心臓に悪い、てゆーかそもそもどうして俺は、 夏休み真っ只中な今日、はすっぴんで格好も部屋着の下をジーンズに履き替えただけ。一昨日塗っていたマニキュアだけがキラキラとその井出達に不釣合いだ。 いつもより格段に幼い素顔は表情を作ることも怠けてしまっているようで、学校でほかの友達に見せるようなめまぐるしく変わる表情も今日はなりを潜めてしまっている。 どうして俺は、アレが好き、なんだ? なんせ小学生の頃から互いを知っている間柄。外面をまとうも完全に素なもよくよく知ってしまっている。 それで好きだというのだからこれはもはや恋じゃなくて愛なんじゃなかろうか。 何せ相手はさっきまでファミレスのソファの上にサンダルを脱いで胡坐をかいていた彼女だ。いや、行儀悪すぎ。 「ただいま」 「おかえり」 置かれたグラスを注意深く見る。よし、ちゃんと紅茶の色だ。 「・・・・・・で、。さっきの話」 話を戻そう。 「ごめん智久、席変わってくんない?もうダメここ、眩しすぎ」 話を、戻そうよ。 「・・・わかった、わかったけど席交換したらちゃんと俺の話聞いて!」 「『気付かないふり』の意味がわからない」 さっきの質問をもう一度繰り返した後の、の言葉。 「自分の地味な空腹にも気付くしね。やっぱりバニラアイスも頼んじゃおっかなー。あーあカロリーオーバー」 「・・・・・・」 「食べる?」 「・・・いや、うん、食べる」 ボタンを押してやってきたウェイトレスのお姉さんに「バニラアイスふたつ」と注文して、は今日一番嬉しそうに笑った。 「・・・・・・そーゆーアレじゃなくってぇー」 「どーゆーアレ?」 「っ・・・気づいてるっしょ?俺の、あのー、気持ち、といいますか・・・」 ちらり、の目がやっと真っ直ぐ俺を見た。少し黙って。気持ちを言う。全部言おうと決めれば、何かのタガが外れたように言葉がぽんぽん出てくる。逆にいえば、 「わかるようにやってんだよ俺もさー、毎日家まで迎え行って帰りは教室まで迎え行って、部活は違うけど委員会とか同じじゃん俺アレ立候補だからね保健委員、お前が女子の方やるって言ったから!」 ・・・逆に言えば、制御が利かず。 「幼馴染のままっていうのも都合いい立場だしおいしいポジションだっていうことは重々承知してるから今のままでもいいっちゃいいんだけど、だけどそれにしても何かのアクションリアクションがほしいわけよ!」 「・・・智久、」 くいくい、とが通路を示せば、いつからいたのか「お待たせいたしました」とウェイトレスのお姉さんがバニラアイスを二つテーブルに置いた。迅速な商品提供はいいけど間が悪すぎる。気まずそうな顔をしないでほしい、お姉さん。 お姉さんが立ち去って、はバニラアイスをさっさと口に運ぶ。そんなに急がなくてもこのクーラーの利いた空間、そう簡単に溶けやしないのに。 だけど俺もそれに倣ってひとすくいアイスを食べた。すっと溶ける。久しぶりに食べたバニラアイスは甘い。 「・・・それで、結局智久は何を言いたいの?嫌なんだよそういう回り道っていうか外堀から攻めるっていうかそういうの気付かないふりもしたくなるわ!過程はいいから結論を言おうよ!」 吊るし上げられてるのか助け舟を出されているのか、どちらにしても情けないことこの上ない、けれどここまで来たら言うしかない。というかそもそも今日の炎天下、を強引に連れ出したのはこれを伝える為だったはずなんだから。 「結論、・・・・・・・・・・・・ 好きー、です 」 小さな声。どこまでも情けない。でもやり直しはきかない。 は驚いた様子もなくバニラアイスを見つめる。マスカラの乗っていない睫毛。 アイスをもう一口口に運んだ。 口の中でアイスを溶かしきってから、が言った。 「・・・・・・まぁ知ってたけど」 |