空は暗くよどんでいて、今にも雨が降り出しそうだった。 学校にある自販機にはブラックコーヒーがない。 ずるずる、と とりあえず壁伝いに座り込んで。 ミニスカの下にジャージなんか履きはしないというのはわたくしのポリシーです、 というわけで足全体の裏側とおしりにダイレクトに伝わる冷たさに ヒクンと一瞬喉が引き攣る。 ポケットからコーヒーの缶を取り出して、開ける前に手を温めてほんやりしていると、 はらり、はらり 空から何かが降ってきた。 え、 雪? だけどスカートに落ちたそれは溶けて消えはせずに、ゆびでなぞるとスカートにも指にも白い跡が残った。 灰 か。 そりゃ11月に初雪は早すぎる。 立ち上がって、屋上よりさらに一段高い、給水タンクが置いてあるところを見上げる。 「 、 うへぁ!」 だれかいますか、という言葉は声になることはなくその代わりに飛び出したのはちょっとひっくり返った情けない小さな悲鳴。 それは冷たい風が私の足元を全速力で通っていったからで、ぶわっと広がったスカートをとっさに抑えたらコーヒーの缶が落ちた。 「その悲鳴はナイやろ、あとその色も」 心底呆れたような声にもういっかい上を見上げれば、見たことあるようなないような、知っているような知らないようなひとの姿。 「もっとこう、あるやろ!悲鳴にしろパンツの色にしろ 色気やらしさエロっぽさ! これ大事やでホンマ(ハァ)」 あ、この野郎溜め息つきよった てゆーか見たんやなこの野郎 「・・・うるさいんですけど」 「いやお前 その色何色?白にしてはなんか濃いやん・・・アレか、アイボリー?」 「 う る さ い ん で す け ど ! あ 、」 あ 、と いきなり思い出した。 見たことあるようなないような、知っているような知らないようなこのひとは、 「しぶたにくんや」 「遅っ」 カクン、とお決まりなコケるようなジェスチャーを見て、あぁ 律儀やなぁ と。 そのあとしぶたにくんは同じ高さまで降りてきて(あれ 身長も同じくらい・・・?あ、いや彼のが高い)、僕のこと知ってますかー なんてどうでも良さそうに言う。 「ええとね、同じクラスで、しぶたに すばる? くんで、ヤスちーと仲良くて、サボリ放題のくせに意外と成績よくて、 うん 」 「だけか」 「だけです」 「なんや名前言うとき不安げやったな」 「実はうろ覚えでして」 「アホ、俺みたいな男前の名前も覚えんで」 ちょっと唇を尖らせる仕草が計算くせえな とか思ってたら、しぶたにくんは転がったまんまだったコーヒーの缶を拾ってあたしに差し出しながら、 「同じクラス、 、安田と仲良い、成績は 知らん」 「だけですか」 「だけやな あ、あとパンツがアイボリー」 「(パンツはもうええわ!)」 とりあえずコーヒーの缶を受け取って、なんだかあっというまにぬるくなったそれを両手に挟んでごろごろ転がす。 空は相変わらず暗い灰色をしていて、ただ風は止んだように静かだ。 あたしがさっきまでと同じ位置に座ると、しぶたにくんは当然のように隣に座る。 「あれ、今何時間目や」 「3時間目やけどそこは認識しとこ」 「いや確認や確認。もちろんわかってましたよ」 「(うそつけ)おさぼりですか」 「(ウソやけど)オサボリですよ」 「そんなんで平気ですか」 「やればできる子やねん俺」 「あっそ」 「お前いつもここおんの」 「さぼるときはここおりますね」 「あんまサボらんか」 「3日に1回、1時間くらいさぼる程度」 「あー俺2日にいっぺんガッコ休むもんな、会わんはずや」 「ん?てことは今日は」 「休まんほうの1日ですね」 「休まないほうの1日すら授業はさぼるんやね」 「ええねん大事なのは出席簿やねん」 授業終了のチャイムが鳴り響くまでそんなふうに会話してて、 チャイムの余韻が消えた頃に立ち上がる。しゃがんだままのしぶたにくんはカクンと首を持ち上げる。 「 、ではは先に教室へ戻ります」 「 えー つまらん」 「じゃあしぶたにくんも戻る?」 「もっとつまらん!」 わがままやな と呟いたら うっさいわ と彼は私のスカートの端をつまんで、ぴらり。 「・・・・・・」 「おん、やっぱりアイボリーはやめとき。めくっても微妙すぎて反応に困るわ」 「しぶたにくんあなた小学生ですか」 「パン、 つー、 まる、 見え」 「小学生ですね」 もうええよってゆーかあたし教室戻るってば、またねー と言って屋上を後にしようとして、ドアのところで振り返ると ひらひら と手を振っていた彼は満面の笑みで、笑い皺をいっぱいつけていた。 結局飲まないままだった缶コーヒーを屋上に置いてきてしまったことに気付いたのは、授業開始のチャイムが鳴ってからだった。 (03/03 雨が降らなければ、また明後日) |