目を閉じて、眠るまでの間。
瞼の裏を流れるように思い出される景色。
その景色の中にはいつも、お前がいた。











初めて会った日。雨。
見合いの席。お前はいかにも着慣れてなさそうな様子で着物を着て、危なっかしく歩いていた。
です」
そう言って、微笑む。
十人並みの容姿だった。
だけど笑顔は、これまで会ったどの女よりも美しかった。







祝言の日。雨。
白無垢姿のお前が無理矢理澄ました顔を作っているのがおかしくって、俺はどうにかお前を笑わせようといろんなことをして。
とうとうお前が堪えきれずに吹き出したのは、よりにもよって神主が祝詞を読み上げている最中だった。
二人して神主にものすごく叱られて、だけど、二人してずっとおかしくて仕方がなかった。













思えば、お前との記念日のような日は、必ず雨だった。


あの見合いの日。


初めて一緒に芝居を観に行った日。


婚約した日。


あの祝言の日。


今思い出しても呆れるくらいだ。
本当に、どれだけ天候に恵まれていない夫婦だったろう。








だけど、あの日だけは、晴れていた。








「赤ちゃんができたんです」




お前が笑ってそう言った、あの日。




空は抜けるように高くって、吸い込まれそうなほどに青かった。










そしてその日に、戦争が始まった。










日に日に暗くなっていく情勢の中で、お前はそれでも笑っていた。
お腹の中の子供をいつも腹の上から慈しむように撫でて、柔らかに微笑んで、空襲警報が鳴り響く中でそれを聞かせまいとするかのように、子守唄なんて歌って。
その姿に俺がどれだけ救われたかなんて、気付きもせずに。
ただ笑って、一緒にいた。





いつだって、三人で一緒にいた。







だけど







お前は子供と二人、潰されて、燃やされて、死んだ。








「生きてほしい」と言って、






最期に、









最後の最期に、













初めて泣いて。
























ザアアアアアア











窓の外から聞こえる雨の音に目を開けた。



雨の日は、お前が笑っているような気がする。



雨の日は、お前の姿を探してしまう。














雨の日は、俺は泣けない。