拝啓 様 お元気ですか 僕は学がなく、上手な季節の挨拶もできませんが、この季節そちらはそろそろ紫陽花が咲き始める頃なのではないでしょうか 貴方の家の庭の紫陽花たちは、今年も美しく紫色に咲き乱れることでしょう 毎年見ていたそれを、今年は見られないことが残念でなりません 来年は貴方の隣、貴方と二人であの紫陽花が見られることを願っています 出征してからふた月が経ちます 戦況は厳しく、戦場は激しく、正直に言うと僕が今この瞬間も生き延びていることが奇跡のようにすら思えます 僕のような人間が、ほぼ運だけで生き延びているということ それがあまりに恥ずかしく、情けなく感じます 特に死んでいった仲間達は、こんな僕の姿を見てきっと怒るでしょうね ただ、それでも僕は、貴方と一緒に紫陽花を見たい 誰に何と言われようとも、それだけの為に僕はこんな毎日を精一杯生きています シロツメクサの指輪は、どうしていますか 僕がしっかり魔法をかけたので、まだ枯れていないでしょう きちんと貴方の薬指で、貴方を守ってくれているでしょう ただ もしも、もしもあのシロツメクサが枯れてしまうことがあったとしたら、お願いです すぐに捨ててください あれが枯れるときは、僕の命が消えたときでしょう だから、あれが枯れることがあったならすぐに捨てて、僕のことを忘れなさい あんなものにしがみついてはいけない 僕の影なんかに囚われてはいけない 貴方は優しいひとです 貴方は美しいひとです 貴方は、僕の愛するひとです 幸せになりなさい いつも笑っていなさい 共に紫陽花を眺めるのが、たとえ僕ではなくとも そこに貴方さえいればいいのです 絶対に死んではいけない 貴方は生きていなくてはいけない 僕は明日死ぬかもしれません 死んだら終わりなのかもしれないけれど、僕はその先にすら夢と希望を持っています それが、貴方です 貴方が生きているということが、僕の夢であり希望なのです だから、生きてください 僕の分までとは言わない 貴方の人生を、貴方の為に、貴方の分だけ、精一杯生きてください たくさんの幸せをありがとう 僕は世界で一番貴方を愛しています だから僕は世界で一番幸せです だから貴方を、世界で一番、幸せにしたかった |