「先生ね、野戦病院に行かれたんやて」 「前線で戦って傷ついた兵隊さんたちのこと、ひとりでも多く助けたい言うて、志願しはって」 「そしたらね、あの鬼畜米兵どもが、」 「病院に向かって砲撃しよって」 「全滅、やて」 「そんな危険な場所やて、最初からわかっとったのに・・・偉かったなぁ、先生。立派やわ」 そんなわけ、ないのに。 戦争が終わって、俺の病気が治った。 は戦場から戻らなかった。 野戦病院に向かうことを志願した。 志願? そんなもの、話を出された時点でほぼ強制だ。断れば非国民と呼ばれるだけで。そうすれば、生きていくのが難しくなるだけで。 誰が断れる? 誰も断れない。 少なくともは、自分からそんなところに行きはしない。 だって、俺がいるのに。 は、自分の患者を放っていったりなんて絶対しない医者なのに。 俺が信じていたのは、なんだったろう。 両親から聞かされること。 ラジオから流れてくること。 今となってはそれが間違っていたと十分すぎるほどわかっているのに、あの時はそんなこと知りもしなかった。 考えてみれば、は俺に何も教えてくれなかった。 アメリカが悪いとも言わない。 アメリカ兵を殺すことが正義だとも言わない。 戦場で死ぬことが名誉だとも言わない。 は、俺をそんな言葉で騙そうとはしなかった。 ただ、毎日のように俺の元に通って。 診察して、薬をくれて。 どうでもいい話を聞いてくれて。 頭を撫でてくれた。 俺は、治ったら戦場へ行きたいとずっとに言い続けていて、それはもちろん本心からだった。 それがなにより正しいことだと思っていたから。 そうすれば、が一番喜んでくれると思っていたから。 その話をするたびに、が顔を曇らせる意味も知らずに。 今ならわかるのに。 今なら、なんと言えばが一番喜ぶか、わかるのに。 なのに、もういない。 もう、言えない。 |