ただ見かけただけだ。 父親の持つ工場から帰宅する、勤労学徒だった彼女を不意に見かけた。 ぞわりと背中が震えるような感覚を覚えて、 俺は彼女を自分の物にしようと決めた。 彼女は美しかった。 美しいあまりに周囲からは孤立し、どこにも馴染めず、いつも誰が見ても、彼女だけが浮き上がっていた。 そこにいるのが、何かおかしい。 そんな風に思わせる女だった。 だから彼女は孤独だった。 孤立の原因が自分の容貌にあるとは気付いてもいないらしい彼女は、だけど孤立には気付いていて、なのにその状況から脱却しようとも思っていない様子で毎日一人、過ごしていた。 だったら、きっと彼女は、脆い。 そう踏んだ俺の読みは的中していて、俺は彼女をいとも簡単に手に入れることができた。 手を掴んだのは彼女だ。 俺は、きちんと彼女に選ばせた。 彼女は自分で、俺の物になることを決めた。 すがるように服の裾を掴んだ手を振り解いた。 「なんやねん」 「・・・・・・ごめんなさい」 は払われた手をすぐに引っ込めて、ベッドに座ったまま謝った。 「謝れって言うとんのとちゃうやん。なんで服掴んだんやって、なんの用があったかって聞いとんの」 長い黒髪を揺らして、は俯く。 「つかお前もう今日帰りって言うたやん。暗くなっても今日俺送ってやれへんから明るいうちに帰りやって」 「・・・・・・うん」 「お前が危ない目に遭わんようにそう言うとんの、わからんの?」 「・・・・・・ううん」 「じゃあなんでお前まだそこに座っとんねん。さっさと立って出ていかなあかんやろ?」 「・・・・・・うん」 そう答えるのに、は立ち上がらない。俯いたまま、両手をぎゅっと握り締めていた。 俺は手を伸ばし、の髪を柔らかく撫でた。絹より滑らかな触り心地の髪。 が身を硬くしたのがわかった。小さく震えだす体。 「・・・・・・・・・・・」 ぐしゃっと前髪を掴んで、俯けていた顔を上げさせる。その拍子にの目尻からすぅっと涙が流れた。あの日と同じように、綺麗に流れた。 最初にを抱いた日。 事が済んだあと、は黙ったまま泣いていた。天井をみつめる目をたまに瞬かせて、そのたびに新しい涙がこめかみを伝って枕を濡らす。 人間ってこんな綺麗に泣くものなのか。 そう思った。 「・・・少し寝て、休んどいたらええ。俺隣の部屋おるから、帰るとき送ってったるし」 「・・・いえ、もう、すぐに・・・帰ります」 そう答えては体を起こした。だけどその瞬間、ふわりと眩暈を起こしたようにもう一度倒れこんだ。 「大丈夫か」 「大丈夫です」 「やっぱ少し休んどきや」 「本当に、大丈夫ですから」 「帰られへんやろって言うとんの、そんなんで」 「帰ります・・・・・・・・・帰りたい、んです」 そう言って、また流れた涙。 「・・・・・・あぁ、そう。ほな、」 好きにしたら、と言おうとしていた。 だけど、口から零れたのは全然違う言葉だった。 「ほな、今日はもう帰らせへん」 「泣かんでええの」 掴んでいた髪をぱっと放した。はもう俯かない。俺と目をそらすことも、できない。 かがんで、軽く口付けた。そのまま優しくの体を抱きしめる。 「・・・なぁ、なんか俺に、言いたいことあったんちゃうの?」 耳元でそっと囁くと、怯えたような吐息が聞こえた。 「怒らんから、言うてみ?」 俺の肩にの涙がじわりと染みてきた。 「」 「 、」 |