託されたひと/村上信五



夫婦です。この時代ならこの年齢で結婚していたとしてもそんなに早くはないだろうと。
さらに彼女は子供を身ごもっています。幸せでした。
だけど結果的に彼女と子供は一緒に死んでしまいます。
最初は彼女をかばって彼が死ぬという設定でしたが、戦争の話は女性が取り残された話が多いので、あえて逆に。
もちろんそれだって当時は当然あったのだと思います。
戦争が終わるまで彼は生き残り、やがて別の女性を妻にしますが、彼女のことは決して忘れません。





抗うひと/渋谷すばる



恋人、というには微妙な関係で、もちろん結婚はしていません。だけど寝たことはある、的な。
彼女は彼を愛しています。彼も彼女を愛しているのですが、時代の流れに目を見張っているうちに、だんだんと擦れていってしまった。
「非国民」という役はこのシリーズを書こうと思った最初から彼に決めていました。
「出て行け」とつめたい言葉を吐いた彼ですが、それは彼女を巻き込まないための彼の愛でした。
つまり彼は令状が来たにも関わらず、彼女の予想通りそれを無視するつもりだったのです。
書いてはいませんが、このしばらくあとに彼は非国民として逮捕されるというところまで決まっていました。





何もしないひと/大倉忠義



彼女は娼婦です。彼との間には愛なんてありません。何度か関係を持ったことのある、いわばお得意先です。
彼の親は権力者のため、彼はこの年齢にして召集令状も届かず、安穏と暮らしています。
時にそんな自分が不甲斐なく思えますが、それは一日通してもほんの数分だけのこと。
周囲との温度差に虚無感を抱くことも多い。
それでも彼は本当に時勢や戦争に興味を抱いていない人間です。
彼はこのままぼんやりと終戦を迎えて、戦後の激動など感じもせずに淡々と生き続けていきます。





果たせなかったひと/丸山隆平



彼と彼女は恋人同士でした。突然の招集を彼は素直に受け容れます。
逆に受け容れられない彼女が非国民扱いされないようにと、あえて残酷な言葉を言う勇気が彼にはあるのだと思いました。
お話の最後に届いたのは死亡通知書です。
シロツメクサの花を指輪にしたのは、当時は金属の指輪など入手できなかったから、という意味合いと、
永久的な金属の指輪よりもいずれ枯れてしまう花を指輪にすることで、自分が帰ってこなくても彼女が自分との約束に縛られないように、という彼の思いやりです。
ですが、彼女はこのあと誰とも結婚せずに生涯を終えます。





放棄したひと/安田章大



これも最初から彼にしてもらおうと決めていたキャラクターでした。
あまりに多くのものを一度に失いすぎて、彼の価値観などは全て変わってしまった、もしくはなくなってしまいました。
理性に見える部分こそが本性、という表裏一体のギリギリさは彼にぴったりだと思っています勝手に。
ほぼ初対面である彼女にキスをしたのは ただほしかったから で、 彼女を愛しているから ではありません。
詳しい状況は考えていませんが、彼女と彼はこの先ともに過ごし、なんらかの原因で一緒に死ぬという設定です。





利用するひと/横山裕



彼を悪役にしたのは、何故かぴったりと当てはまってしまったからです。
この話は簡単に言えば、彼が彼女にひと目惚れをしたという話です。
学徒である彼女が油まみれになって働いている姿を見初めた工場主の息子である彼が、彼女を手に入れるために近づいてきた。
ただその手段が、ぶっちゃけ汚いという。
彼女は頭のいいことが仇となり、じわりじわりと疑問をぶつけてくる権力者の彼に混乱させられてしまいました。
特筆していない部分、彼女は彼に体を売ることになります。
彼は戦後も彼女を自分のものとして束縛したまま手離しません。
彼女からしてみたらとても救いのない話です。





信じるひと/内博貴



これはまた逆を狙った話で、戦地へ向かうのは医者である彼女だった、という話。
病気で寝たきりの彼はすりこみ教育のように政府の言うことをどんどんと脳に入れていく環境にあったため、戦地で死ぬことはとても名誉な事である、アメリカ兵は何より憎むべき存在であると信じています。
彼女は戦地から帰ってはきません。
実は彼の病はとうに治っていました。
けれど彼に戦地に向かってほしくない彼女が毎日弱い毒を薬と称して彼に飲ませていた。
だから彼女が戦地へ行ってからは、彼の体調は皮肉にも日々良くなっていきます。
毒のことなど知る由もない彼は、彼女が命を賭した奇跡でもって自分を助けてくれたのだ、と幻想的な思考でもって考え、彼女を愛し続けて一人で生きていきます。





帰ってきたひと/錦戸亮



出陣する間際、必死の思いで待機した特攻隊員の話を聞いたことがあります。
彼はまさにそれで、いつ出撃かわからずに神経を張りつめたまま終戦を迎えました。
陸で戦った兵士たちと違い身体的には健康な彼は、空軍基地から幼馴染である彼女の待つ町に帰るまでの半年以上をいろんな地での復興作業の手伝いに費やしていました。
本当は彼女が心配でたまらなかったけれど、目には見えない安心感、彼女は絶対に生きて自分を待っているという信頼感を信じ続けます。
「勇気、勇気、勇気、」と念じるのは、彼女が幼い頃彼に教わったおまじないのようなものだったりもします。 彼と彼女はこのあと結婚し、幸せになります。