隣の家のお兄さんが、戦死したらしい。
その話を聞いた彼は、視線をおとして「そっか」と頷いて、それから



「ええなぁ、」と呟いた。



彼の病に名前はない。
幼いときからずっとずっとこの部屋で、開けられる事のないガラス窓の外を眺める彼。娯楽はラジオだけ。
彼の世界は、彼の両親とラジオから流れてくる情報だけで構成されている。



「俺も病気やなかったら兵隊さんになって、戦地行って、米国の悪い奴らいっぱい殺したかった」



だからこそここまで純粋な『国民』ができあがったのだろう。



「博貴、」
「ほんで帰ってきたらさ、、俺のこと褒めてくれるやろ?」
「・・・、うん」
「せやろ?ほら、もうホンマうっとーしーわ、こんな病気とか!俺、にいーこいーこしてもらいたいのになぁー」



「・・・はいはい」



自然に零れた笑顔、そして手は彼の髪に触れる。ゆっくりと頭を撫でると、彼は満足げに笑った。



博貴が病気でよかった、そう口にしたら、彼はどんな顔をするのだろうか。
戦地になんて行ってほしくないのだから。誰かを殺してなどほしくないのだから。



「なぁー、」
「うん?」
「俺な、戦地行けへんけど、そのおかげでずっとのこと近くで守れるから 安心してて?」



「・・・・・・   うん ありがとう」



ずっと近くで、なんて、叶わないのに。
彼はずっとここにいるのかもしれないけれど、私は明日になればここにはいないのに。
今日を最後にしばらくの、もしかしたら永遠のお別れなのだと、だけどこんな彼には言えるはずもない。



「じゃあ、お大事に」



立ち上がった私に笑顔で頷いてから、何かを思いだしたかのような顔をして「ちょっと待って!」と博貴は手を伸ばした。
「ちょ、もう一回座って!」
「・・・? うん、」
「頭」
「頭?」
「頭ちょっと下げてや!」
「・・・・・・あ、」
屈むように頭を下げると、彼はさっき私がやったように、私の髪を撫でた。



「また明日な」



溢れそうになる涙を押しこめて、無言で頷くしかできない。





嘘はついていないから、許して