彼は涙を流す私にふんわり笑って、小さなシロツメクサを結んだだけの指輪をくれた。
万歳を叫ぶ人々を見回してから、こっそり耳元で囁いてまた笑う。
「おかんが持たせてくれた千人針とがくれたお守りあるから絶対大丈夫。な?」
どこの戦地へ行くのかは教えてくれないけれど、どこだって同じ。そこは戦地でしかなくて、安全な場所であるはずなくて、だけど行かないでなんて言えるはずもない。



「 あかんよ、あそこの人たちずっとこっち見てはる」
本当ならこんなふうに泣くことだって許されないのだ。
「・・・そっか泣くほど嬉しいんかぁ!うん? おう任しときぃ、マルちゃんな、敵バンッバン殺していーっぱい勲章もらってくるで!」
そんなことをわざと大声で言う。残される私を気遣って、私が疎外されないように、私が迫害されないように。



「隆平さん、」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい



この、優しいひとに。
こんな言葉を言わせたくなんてない。
いつも抱きしめてくれた、頭を撫でてくれた、その大きくて温かい手は人を殺すための手じゃないの。



「おっきな声じゃ言えへんけどな、  絶対帰ってくるから」





「帰ってきたら  結婚しよな」





揺れる。綺麗な瞳。彼は泣かない。私の涙を指ですくって、その手があまりに優しいものだから、縋りついてしまいたくなる。
ねぇ、約束なんて、しないでください。千人針のされた手ぬぐいだって、昨夜作ったお守りだって、なんの保証にも弾除けにもならないことくらい私にだってわかる。
だけど私は頷くしかできないのだ。シロツメクサの指輪を潰さないように、そっと包み込んで、まるで祈るような姿で。



「そのシロツメクサ、魔法かかってはるから  枯れへんから」
「・・・そんなのは、嘘です」
「ほんまやて、   信じてぇや 」



彼は、たしかに私にとっての魔法使いだった。出会ったときからそうだったのだ。
彼は私の世界を構築している人。彼がそう言うのなら、きっと本当なのだと。無条件に信じてしまう、私が馬鹿なのかもしれないけれど、それでもよかった。そんなふうに賢いのなら、こんなふうな馬鹿でもいい。



「・・・わかりました、 信じますね」
「 うん 」



ふわり、笑う。ふわり、ふわり。
列車に乗って、彼は出立した。



一枚の紙だけが、ふた月後に帰ってきた。




ねぇあなた、シロツメクサは枯れてしまいました