「戦争なんてクソくらえ、や」
ぽつり、呟いたその言葉に私は彼の顔を信じられない思いで見つめた。
眼鏡の奥の大きな目は、だけど私を捉えているわけではない。カバーのかけられた電球を見つめているのかもしれなかった、こんな暗がりではわからないけど。



窓の外からはB29とサイレンの音が聞こえる。



「すばる、なんてこと言うの・・・」
みんな戦っているのに。この瞬間も誰かがお国のために死んでいるのに。命を賭して私たちを守ってくれているのに。
「お前、本気でこの戦争に勝てると思てんのか?」
見えなくたってわかる。彼の目が私を捉えた。強い光をたたえた彼の目は好きだ。だけど今だけは、怖い。
「・・・勝、」
「正直に言えや、今なら誰も聞いてへん。今のこんな状態で、日本勝ってるとか本気で信じとんのか」



彼は、戦争が始まる前はよく笑うひとだった。落ち着きがなくて、よく喋って、なのに戦争が始まってから彼は変わってしまった。
彼の親友が令状に従って戦地に出征してからは、あんなに好きだった歌を口ずさむこともしなくなってしまった。
家からほとんど出なくなって、笑わなくなって、ご飯もあまり食べなくなって、無気力状態。召集令状はまだ彼の元には届いていないけれど、届いたところで彼はきっと行きはしないだろうと予想はついた。そしていつかこうなじられる日がくるのだろう、非国民 と。



天皇陛下のお言葉を信じて、憲兵さんたちの言うことに逆らわないで、おなかがすいても我慢して、欲しいものがあっても我慢して、ただじっと耐えて、耐えて、耐えて。



限界が近い、とはわかっていた。



だけど、だからこそ、勝つのだと。戦地で亡くなった兵隊さんたちの死には意味があるのだと。そう信じなければ、壊れてしまうのに。



「・・・私の、」
「おう」
「私の意思なんて、関係ない。私は、すばるがいてくれればいいの。勝っても、・・・もし 負けても、その先どうするかはそれから考えて、だけどそれまでは、」
できれば、それからも。
「ずっと、 すばると一緒にいたいの・・・」
「・・・・・・そか」



B29の爆音が遠ざかり、やがてサイレンの音が止んだ。





「 お前、出てけ」





立ち上がり、電球からカバーを外しながら彼が言った。部屋が煌、と明るくなってから振り返った彼が、座ったままの私を見下ろすように見つめながらポケットから取り出したのは、 召集令状だった。




「俺のそばにいたらあかん」




「これでお前の名前呼ぶんも最後や」




、」




「幸せに、生きろ」





そうじゃないことだけを願っていたのに