そのひとは世間のことなんて全く知らないかのような風貌で、髪はまるで鬼畜米兵のように金色に脱色されていたし、どう見ても人工のパーマネントが施されていた。色とりどりに染め上げられた服はよく見たら国民服なのだけれど、こんな着方をしているひとはいるはずもない。 彼は太陽のように笑うひとだった。 空軍への召集令状、その指定された日。列車に乗った直後、出発した駅を中心に、彼の生まれ育った町は爆撃を受けた。列車は爆風に吹っ飛ばされてめちゃくちゃな状態になり火を吹いた。意識を失わず煙を逃れて這い出た彼が振り返れば、そこには死体と瓦礫しかなかったという。級友もいた。見知らぬ人もいた。初老の人も、幼い少年もいた。だけど誰も見つけられなかった。 走って、走って、出立したばかりの町を目指して。だけどいつまで経ってもどれだけ走っても、町へは辿り着けなくて。町そのものが消滅してしまっているのだと気付きながらも走り続けた。 だけどやっぱり、いつまでもどこにも辿り着けなかった。 後々知った話、彼の乗っていた列車は生き残りがゼロだといわれていた。 つまり彼は、死んだ存在となり。 戦場へ行かなくても済んだ代わり、どこへも行けなくなった。 「アホやなぁって思って」 彼は隠れるように暮らしている林の、小さな川に足をつけながら言う。 「守る為に戦地行くって言うてさ、もちろん俺かて家族も友達も学校も守りたかってんけど、みんな俺なんかよりよっぽど必死で純粋でさ、それなのにみんな死んでもうてんで。みんなが守りたかった人とか物とかも全部ぶっ壊れてもうてんで。意味ないやんアホやんか。したいけどできひんの。なんでやってお上がアホやから。アホなお上の言うこと全部真に受けて必死こいて、でも不可抗力で死んでもうてんのな。あーほんまアホ。俺戸籍なんてもうないけど、いらんもん、こんなアホな国に戸籍なんて」 抑揚のない声で言う彼の目は、生まれ育った町の悲惨な光景を目の当たりにしたというのに陰りもなく、川に反射した太陽光をさらに反射してキラキラと輝いていた。 この人は狂っているのかな、 隣で同じように足を冷たい水に浸しながら、そんなことを思った。 「あ、なんやろ、あれ」 浅い川の底、きらっと光るものに手を伸ばして救い上げれば流されて角が少し丸くなったガラス瓶の欠片。 彼はそれを真上に投げて、パンっと手を叩いた。私の前に差し出された左右の握りこぶし。 「どーっちだ?」 「・・・こっち」 はずれ。私が指さした左手をぱっと開いて彼は笑い、そのまま左手で私の後頭部を抑えて唇を奪った。 「、」 唇を放して彼は笑った。キラキラした瞳。 「もう、ええやん ?」 彼が握り締めたままの右手から、破片で切れたのだろう、血がゆるゆると流れてくるのを見ながら、 きっと私の戸籍も今日でなくなるのだろう、と |