「なぁ、ちょっと教えてーや」



そう突然声を掛けてきたのは、見たこともない男だった。
私は働いている工場の昼休み、ほんの少しのお弁当を食べ終えて空を眺めていた。これが私の唯一の楽しみ。
下を見れば手は機械油で真っ黒だ。もう学校なんてどれくらい行っていないだろう。
「・・・ふーん、さんっていうんや」
胸に縫い付けてある苗字だけが書かれた名札を見て、彼はとても無機質に私の姓を呼んだ。
「・・・なんでしょうか?」
道でも聞きたいのかと思ったが、工場敷地内であるこの場所でそれもおかしい。私の真正面に立った彼は逆光で酷く眩しかった。



「  どんな気持ちなん?人殺す道具作るのって」



頭にかぁっと血が上った。
「なん、ですか  あなた・・・ 意味がわからな、」
「わからん?」
突然至近距離で覗き込まれて、驚いた拍子に膝の上に置いておいたお弁当箱がカタンと落ちた。それを拾いながら彼は目を吊り上げて笑う。



「わかるやろ、なぁ?野蛮や鬼畜や言うてても、アメリカさんとこの兵隊さんかて人間や。お前が作った銃で人間が何人も死ぬんやで。日本の兵隊さん恨みながら、日本恨みながら、・・・お前のこと、恨みながら」



ドクドクと脈が速くなる。
それは、 そんなことは、  わかっている。
だけどそんな現実からは目を伏せさせてほしいのに。私が誰かの命を奪う加担をしているだなんて、そんな、そんなこと 言うの





「・・・やめて ください」





ようやく発した拒絶の声は想像していたよりずっと情けなく震えていて、彼は愉しそうに笑った。



「俺、ここの工場んとこの息子やねん」



思わぬ肩書きに、今度は血の気が引く。つまり彼のひと声で私はこの工場からの居場所をなくし、収入をなくし、 きっと、この町を追われる。行くところなんてないのに。






「なぁ、」






「、 どうして、名前、」
「でももう、作りたないんやない? 人 殺 し の道具なんて」
「 ・・・、」
「ええやん、この仕事、やめさせたろか?もちろんクビと違うで?俺こんなんでも、そこはちゃんとしといたるから」
「・・・え?」
「その代わり、」




キィィィ、と小さな飛行機が低空飛行していく音が、左から右へ抜けていった。






そして私は空と引き換えに彼の差し出した手を、