動物園なんて久しぶりやな、ロケやけど。


開園前の動物園は、当たり前やけど全然人がおらん。意外なのは朝から動物たちは元気なんやなぁということ。
こんな状態のときにプライベートで来れたら楽しいやろうな、そう思いながら現場プロデューサーの話を聞く。


「それで今日は、このチンパンジーの飼育員さんにちょっとインタビューしてもらうんやけど・・・ほら今あそこで掃除しとるひと」
「・・・チンパンジーですか」


なんとなくやっさんを思い出すな。


その思考はひとまず追い払って、プロデューサーが指差す、チンパンジーの檻の中で働く飼育員さんの後姿を見た。
水色の作業服みたいな制服に身を包んだその後姿。ひとつに結わえられた長い髪が、きちんとかぶられた帽子から伸びている。


「女のひとなんですね・・・」


珍しいな、でも今はそんな珍しくもないんかな。そんなことを考えていると、プロデューサーが「すいません、ちょっと打ち合わせしたいんで、ええかな?」と彼女に声をかける。
「あ、はい、すみません」と彼女は小走りで檻を出てこっちに走ってきて、俺の目の前まで到着すると帽子をとって頭を下げる。
「よろしくお願いします」


俺らにそう挨拶して顔を上げた、そのひとは。
「いやー飼育員さんやってんのもったいないくらい美人ですね」
というプロデューサーの言葉にも表れるように、びっくりするほど整った顔をしていた。


思考停止する俺を差し置いて早速始まった打ち合わせにうなずいたり質問をはさんだりしながらも、彼女はちらちらと檻のほうを振り返る。そこにはのんびりと木にじゃれついているチンパンジー。
「・・・好きなんですね、チンパンジー」
俺が思わずそうつぶやくと、彼女は笑って「はい、大好きです」と答えた。
「・・・・・・」


大好き、ですか。


「じゃあ後は本番やけど、録画なんで失敗とかそんな気にせんと自然な感じでお願いします」
プロデューサーがそう打ち合わせを切り上げ、彼女は俺らにお辞儀してからまた小走りでチンパンジーの檻に向かっていった。


「じゃあ丸山くん、機材の準備できるまで20分くらい休憩しといて」
「あ、ハイわかりました」


檻を見ると、甘えるように彼女に抱きつくチンパンジーと、それをめっちゃかわいい笑顔で抱きとめる彼女の姿。
写真とか撮ってええかな、と携帯電話を取り出して、
「・・・・・・やめとこ」
少し考えてから、アドレス帳を呼び出す。





『・・・もしもしマル?どしたん』
「なぁやっさん、」
『ん?』


















「一日だけチンパンジーになりたいねんけど」














キー!と彼女の腕の中でチンパンジーが鳴いた。笑われたような気がした。
『知るか!』と電話越しのチンパンジーも鳴いた。ちょっと笑えた。