「は?だからお前それがどこかわからんから言うとんねやろ?・・・タクシー?わざわざ?え、あ、ちょ!待てよお前!」 待ち合わせた店がわからんから電話したのに『じゃあタクシー使ったらええやん』とだけで切られた電話。歩いてける距離やっつったやんけお前、タクシー代もったいなくない?お前出すんかタクシー代。 とかセコいことをいつまでも言っててもしゃあないからとりあえず道路の脇で軽く手を挙げる。 すぐに停まったタクシーに乗り込んで店の名前を言うと、「それ歩いた方が近いですよ」とか運転手に言われて、わかっとんねんうっさいな、と、実際口に出しては言えんかった。 だって、びっくりした。 「・・・女の方、ですか?」 「あ、ハイ」 普通に答える運転手と、バックミラー越しに目が合う。大きな目、マスカラの乗った睫毛。 「そのお店までの道路、結構混んでますから。歩いて突っ切っていっちゃったほうが早いと思います」 「いや、・・・道がわからんから、」 そう答えると運転手は「あぁ、それならありますよ、地図」とあっさりダッシュボードから畳まれた地図を取り出した。 「その席じゃちょっと見にくいかな・・・助手席のほうに一旦来てもらえれば」 ・・・ええんか?このひとはいわゆる売り逃しをしようとしとるような気がすんねやけど。外国なんかじゃ客が道知らんのをいいことにぐるぐる同じ道回ってメーター回しまくるっていうタクシーもおるって、誰かが言うとったしな。いやそうしろとは言わんけど。むしろそんなんされたら本気で困るけど。 というわけで俺は素直に助手席に移った。 真ん中に広げた地図に、胸ポケットから出したボールペンでくるっと丸をつけて、「お店はここなんですけど」と運転手は説明を始める。 「今この駅なんですね、で、こっち側にいるんですけど、この・・・ちょうど目の前ですね、信号あるでしょ?それ渡ってまっすぐ行ったらほら、ここにセブンがあってそこをこっちに曲がる。銀行まで歩いたらその裏手がゴールです。10分かからないと思いますよ」 ボールペンで道を指差しながら説明されれば簡単な道のりで、たしかにコレで乗せてって金とんのは俺でも嫌やな、と思った。 「あー・・・わかりました、ほな歩いて行ってみますわ」 「ハイ、気をつけて」 「なんかスイマセン」 「いいんですよ、そのうちまた乗ってくれれば」 そう言って笑う。正面から見た運転手はいわゆる美人で、しかもええひとや。正直言ったら、このまま乗せてってもらってもええかもな、とか思い始めてはいた。でもここまでしてもらったんやからそれもどないやねんって感じよな、と思いなおしたりもしながら、 ドアを開けた、瞬間。 ザアアアアアアアアアアアアアアア 「・・・・・・は?」 どしゃ、降り。 いや、いやいや、え?なにコレ、夕立?前触れはなかったよな? ドアを閉めた。運転手も突然の豪雨に目をぱちくりさせている。 「急・・・でしたねー・・・」 「でしたね・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 どちらともなく笑って、「やっぱ乗せてってください」と言うと、「承りました」と運転手は帽子をきゅっと被りなおす。 その姿がかっこよくて、キレイで、 |
なんならもう、 あなたが行きたいところへ行ってくれて いいんですけど。 |
そのかわり5000円以内なら、ですけど。 |