やっぱもう、無理かな。



そんな風に言ったのは彼女だった。
彼女が、夢のために海外へ発つことを決めたあの日に。
突然の知らせにわけがわからないまま、俺は立ち尽くした。そんな俺の顔を見て、彼女はさびしそうに笑って言った。やっぱもう、無理かな、と。



いつ発つの、いつ帰ってくるの、いつまた会えるの?
どの質問もしていないのに。
まだ俺は、何も言っていないのに。
なんで、諦めるんだよ。



そう考えたら腹が立ってきて、俺は答えた。平静を装って、彼女につりあう大人の男の演技をして、淡白に、できるだけ冷たく響くように。



そうだね、もうおしまいだ。なんて。



本当は知ってたよ。知ってたし、気づいてた。
夢のために発つ彼女を俺が止めることなんてできやしないけど、それでも彼女は俺に止めてほしかったんだ。
それが叶わなかったから、別れを突きつけた。
俺が彼女を待たないように。俺がこの場所に停止しないように。最後まで、俺のことばかりを考えて。
最初から最後まで、優しくて。
そのくせ臆病に、語尾を濁してみたりして。そこでもまだ、俺に止めてほしがるような隙を作って、ほんの少しの甘えをのぞかせて。
そんな甘えを無視して、



あなたの優しさを傷つけた、あの日のクリスマス。



あれから2回目のクリスマスがやってくる。彼女のことを忘れようと去年は仲間たちと騒いでみたけれど、余計に寂しくなるだけだった。
どうして彼女はここにいないんだろう。
どうして彼女は俺の隣にいないんだろう。
そんなふうに、思って。
全部、自業自得なのに。










10月にレターセットを買った。彼女の好きだった花のイラストが描かれている、きれいなレターセット。伝えたい想いを考えて考えて、だけどそれを言葉にすることができないまま、11月になった。
ようやく言葉を見つけて書き出して。だけどそれは読みにくい、文章にもなっていない単語の羅列でしかなくて、気に入らなくて、破り捨てた。





あの日はごめん。
体調崩してない?
あなたに似合いそうなコートを見つけて、思わず買いそうになった。
仕事はうまくいってますか?
去年のクリスマスは、あなたがいなくてとても寂しかった。
俺が子供で、馬鹿だった。
この間、あなたの夢を見た。



どれも伝えたかった。どれも届けたかった。
だけど、本当に伝えたい言葉はなんだろう。













友人から聞き出した書きなれない住所をエアメール用の封筒に書いて、封をする。
届くだろうか。
彼女はこの手紙を、読んでくれるだろうか。



やっぱもう、無理かな。



あの日彼女が言った言葉がリフレインして、雨の中、ポストに向かう足を止める。
迷って、悩んで、その場に立ち尽くして、どれだけの時間が経っただろう。



気がつくと、傘を叩く雨の音が止んでいた。
空を見上げると、いつの間にか雨は大きな雪に変わっていた。



彼女が大好きだった、雪。



背中を押されたように、自然と足がまた動き始めた。
伝えたい言葉は、きちんとこの封筒の中にある。短くて、やっぱり手紙になんてなっていないけど、
いろいろと考えた一番の想いを文字にしてみたら、たった7文字だったんだ。











会いに行きたい。






White X'mas






この夜空の、遠い向こうに。